福岡
けっこう急な坂道を登って、
左に曲がったらすぐの平屋の一軒家。
1年に1度、
訪れたのは毎年とても寒い頃。
雪が積もってかまくらを作ったことがある。
玄関。
扉を開ける時はいつも嬉しさでいっぱいだった。
庭には色んな花や木が並んでいて、
正面には桃の木が生えていた。
実際に実がなって食べたこともある。
とても甘かった。
桃の木の横には僕が生まれた日に植えた木。
綺麗な芝生。
穴をあけてパターゴルフもした。
わざと負けてくれているとは知らずに喜んだ。
左隅に砂場。
家の裏には家庭用の焼却炉。
何を燃やしていたかはよく覚えていない。
ただ、あの匂いが凄く好きだった。
バチバチ、何かが焼ける音を覚えている。
ひんやり冷えた廊下には古いオルガン。
その横にある寝室のベッドに潜り込んだ。
固めで気持ち良い。
リビングの棚には写真や絵がたくさん並んでいた。
サッカーをしている僕がいた。
いつも10日間ぐらいいたのだろうか。
毎日、僕の好きな食べ物ばかり出てきた。
焼き肉。
すき焼き。
お好み焼き。
手巻き寿司。
イチゴを潰して練乳とミルクを混ぜた。
いつも大量に作ってくれたマドレーヌ。
最高に美味しかった。
年の終わり。
暖かい部屋で僕はドラえもんを見てから、
歌番組をみんなと一緒に見ていた。
大好きな時間だった。
年の始まり。
みんなはお雑煮、僕はおしるこ。
ボードゲーム、負ければ拗ねる僕にもみんなは何度も付き合ってくれた。
使い道も分からないお年玉を喜んだ。
玄関。
扉を閉める時はいつも寂しさを我慢していた。
あの家も今はもう知らない誰かが住んでいる。
あの頃の匂いは忘れない。
思い出せば優しい気持ちに包まれる。
今でも
2人が僕の名を呼ぶ声が聞こえる気がする。
あの時の愛情は今もここにある。
今の僕を作っている。
見返りの無いものだった。
ありがとう。